ある夫婦の話

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結婚記念日の今日、婚約指輪を失くした。旦那は結婚当時、私のために何ヶ月もお金を貯めて華奢な婚約指輪を買ってくれた。大きなダイヤでなくても、心から嬉しかった。大切だから、毎年この日だけしか棚から出さなかったのに。
「でも、いっか」
冷め切った二人の関係が私をそう思わせた。

ディナーが始まると、私は指輪を失くしたことを悪く思い始めた。それから間も無く、大きな罪を犯したような罪悪感に駆られた。
「ごめん…婚約指輪、失くしたみたい」
沈黙の後、旦那は帰り支度をしているように見えた。
「俺こそ、ごめん。勝手に…」
カバンから取り出されたのは私の婚約指輪。
「歳をとるにつれ、俺たちの溝が広がっている気がして。去年、婚約指輪に傷が付いてるのを見つけたから、少し綺麗にしたんだ。毎年この日に使ってくれてるもんな」
照れ臭そうに笑う彼。私の薬指に婚約指輪をはめたあの日と何も変わらないって、やっと気付いた。
その他
公開:19/12/28 01:58
更新:19/12/28 02:01

みみ

むかし話、おとぎ話が小さい頃から大好きです。
誰かの目に留まるような物語が書けるように頑張ります!

コメントや☆をつけてくださる方、本当にありがとうございます。嬉しいなぁ、幸せだなぁと心から思いますm(_ _)m

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