風の来た日

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そうだ。あの日も突然風が吹いたんだ。

「ユミはケンジくんのことが好きなのねえ」
「は?そんなこと言ってないじゃん」
「おばあちゃんには分かんの。ほら、風が来た」

中学に上がった頃、近所にあるおばあちゃんちの縁側は、素直な自分でいられる唯一の場所だった。親にも友達にも言えないけど、誰かに聞いてほしいことは山ほどあって…。

「ふふ、恋一番ね」

人生の節目には折々の風が吹くという。なかでも恋一番の香りは甘く、周りを幸せな気持ちにさせる。からかわないでよ。今だって、さっきと違う方向から風吹いてるじゃない。

「おーい、ユミー!プリント忘れてっぞー!」

風に乗って自転車少年がやってきた。おばあちゃんは鼻からすーっと息を吸い込んだ。

遺影は、あの日と同じ笑顔だ。名も知らぬ風が、悲しみをそっと撫でてくれる。帰ったら旦那と思い出話でもしようか。

「ねえケンジ、きっと忘れてると思うけどさ…」
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公開:19/12/28 23:40

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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