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 スーパーマーケットのお菓子売り場の棚の間を、お手伝いカートに引きずられるかのように、ポニーテールの少女が「Say ya!」と叫んで走っていく。彼女のカートのなかでは、グミとチョコパイが上へ下への大騒ぎだ。
 12月28日。私の業務に仕事納めはない。年末の客層は普段とは違い、見慣れない顔が多い。その少女の顔を私は覚えていないので、おそらくこっちに帰省してきたのだろう。
「Say ya!」
 中華食材の前からカレールー売り場を回り鮮魚売り場へ逆走した少女は、蒲鉾の前でキョロキョロすると「Say ya!」と叫び、アイスコーナーの手前で玄米フレーク側へ急旋回した。
「セイヤ!」
 少女は押していたカートを押しのけて、もち米を見ていた弟らしき少年をギュッと抱きしめ、ポケットから笛ガムを取り出すと、ニコニコ笑ってそれをカートへ入れた。
 私はホッとして、他の客の不審な動きを見張るべく店内を移動した。
その他
公開:19/12/28 12:51

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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