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棺桶で眠る彼の頬に、これが最後と指で触れた。
「じゃあ始めるよ」
老婆の声に私は静かに頷く。助手の男が棺桶を奥の部屋に運び、「この部屋で待ってな」と老婆も奥へと消えた。
彼女は魔法使いだ。奥の部屋で何が起きているのか私は知らない。ただ、これから何が起きるかは知っていた。
扉の奥から微かな音がしばらく続き、やがて老婆が戻ってきた。手には器を持っている。私は老婆からそれを受け取った。器に入った透明な液体は、シュワシュワと音を立てて炭酸が弾けていた。
天に還った彼の魂は戻らない。これは脱け殻の体に刻まれた記憶の残滓。この泡の一つ一つが、彼が感じた記憶の欠片なのだ。
「早く飲みな。泡が消えちまうよ」
老婆に急かされて器を口元に寄せ、一気に飲み干した。
喉の奥で泡が弾け、彼の記憶が押し寄せてきた。彼が触れた私の体温を。彼が聞いた私の声を。高鳴る胸の鼓動を。その極上の一杯が私の喉を潤し、心を満たした。
「じゃあ始めるよ」
老婆の声に私は静かに頷く。助手の男が棺桶を奥の部屋に運び、「この部屋で待ってな」と老婆も奥へと消えた。
彼女は魔法使いだ。奥の部屋で何が起きているのか私は知らない。ただ、これから何が起きるかは知っていた。
扉の奥から微かな音がしばらく続き、やがて老婆が戻ってきた。手には器を持っている。私は老婆からそれを受け取った。器に入った透明な液体は、シュワシュワと音を立てて炭酸が弾けていた。
天に還った彼の魂は戻らない。これは脱け殻の体に刻まれた記憶の残滓。この泡の一つ一つが、彼が感じた記憶の欠片なのだ。
「早く飲みな。泡が消えちまうよ」
老婆に急かされて器を口元に寄せ、一気に飲み干した。
喉の奥で泡が弾け、彼の記憶が押し寄せてきた。彼が触れた私の体温を。彼が聞いた私の声を。高鳴る胸の鼓動を。その極上の一杯が私の喉を潤し、心を満たした。
ファンタジー
公開:19/12/28 14:00
更新:19/12/28 13:05
更新:19/12/28 13:05
月の文学館
年末蔵出し
月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。
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