僕がカメラを持った理由。僕がカメラを手離した理由。

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「写真を撮ってきて欲しいの」
病院のベットで横になる彼女は言った。
彼女は病弱で長くは生きられないと聞いている。
そんな彼女の望みは、真っ白で殺風景なこの病室を見知らぬ風景で彩る事だと言った。
「どんな写真でもいい。貴方の見たものを私に教えて」
それが僕がカメラを始めたきっかけであり、彼女と長い付き合いを始めた節目でもあった。
僕は最初、綺麗なもの、変わったものを撮ろうと頑張った。
でも彼女は日常の風景が好きだった。
庭先の犬。塀の上の猫。退屈な授業風景。家族と囲む食卓。そして、通学路。
どれも彼女が見る事の出来ないものばかり。彼女は僕の当たり前を愛した。

彼女がいなくなった後も病室には彩が溢れていた。
僕はカメラを置いた。それ以来、二度と手にしていない。
「ねぇ!今度の旅行、どこ行く?」
彼女が元気いっぱいに話しかけてくる。
退院した彼女は今日も僕のカメラを片手に嬉しそうに笑っている。
青春
公開:19/12/25 19:13
更新:19/12/29 19:03

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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