バス

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 一人バスに乗っている。
 霧とも闇ともつかぬ中を走るバスに、他の客はいない。
 あの世へ向かっているのだなと思った。
 十分長く生きたし、悔いはない。

 退屈しのぎに私は運転手に話しかけてみた。
「バスができる前は何を使って行ってたんでしょう」
「それこそ馬車じゃないですか」
 意外にも運転手は気さくに答えてくれた。
「時間が掛かったでしょうね」
「いや、昔の方が早かったくらいです。今はこういう事がありますからね」
 そういえばバスはさっきから止まったままだ。
 私は一番前に行って窓から外を見た。
 金属の箱が幾つも積み重なって、道を塞いでいる。
「延命治療の機械ですよ。あれが退くまで前には進めません」
「どのくらいかかりますか?」
「さあ。数日か数年か」
「数年……」

 このバスの中に、数年間閉じ込められる?

 絶望する私に「ここはまだ地獄じゃありませんよ」と運転手は笑った。
その他
公開:19/12/27 07:12

堀真潮

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