つれない

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本当は一目惚れしていたの。
海辺に佇む貴方を見て、すぐ恋に落ちた。
でも。でもね。
「つれないなあ」
貴方はまた寂しそうな顔で呟くけれど、私はその手には乗らないわ。
だって貴方は釣った魚に餌はやらない。今は何時間も健気に私を待ったり、魅力的なプレゼントで惹き付けようとするけれど、手に入ったらぺろりと私を食べてしまうだけに違いないんだもの。
私は貴方が好きだけど、そんな安い女じゃないのよ。
「本当につれないなあ」
大きな溜息をついて肩を落とした貴方は何もかかっていない釣糸を引いて立ち上がった。今日もあのクーラーボックスの中は空ね。ちょっと可哀想だけど仕方ないわ。水面越しにゆらめく貴方の背中を見つめて、少し切なくなる。
だって私はまだお刺身になりたくないもの。
その他
公開:19/12/27 02:47

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