節目の向こう

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ぼんやりした視界が、徐々にクリアになる。

桜の舞う校庭。僕は初めてのスーツに身を包み、走り回っている。

相手のバットが空を切る。「優勝だ!」チームメートが駆け寄る。

夕陽の見える丘。初恋。彼女の手にぎこちなく触れる。

大学の合格発表。番号はない。落ち込んだ帰り道、歩道に突っ込んだ車が僕を……。

「懐かしかった?」
頭の中に声が響く。これが走馬灯ってヤツか。それにしても……。
「死神って、女性もいるんですね」
そう言った僕の目の前に、ゆらゆらと人影が現れる。

「母さん!なんで?」
「失礼ね、死神なんて。一緒に振り返りたかったのよ。あなたは……生きなさい」

眩い光。目を開けていられない。

全てを聞かされたのは退院してからだった。一緒に発表を見に行った母さんが、僕を庇ってくれたことも。

「いってくるよ」
仏壇に手を合わせ、僕は立ち上がる。

あれから一年。今日は、合格発表の日。
ファンタジー
公開:19/12/27 02:30
更新:19/12/27 02:44
節目

makihide00( 鳥取→東京→福岡 )

30代後半になりTwitterを開設し、ふとしたきっかけで54字の物語を書き始め、このたびこちらにもお邪魔させて頂きました。

長い話は不得手です。400字で他愛もない小噺を時々書いていければなぁと思っております。よろしくお願いします。

Twitterのほうでは54字の物語を毎日アップしております。もろもろのくだらない呟きとともに…。
https://twitter.com/makihide00

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