節目の目

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「どんな相手でも、ちゃんと目を見るんだ」
じいちゃんは僕を膝にのせて、よくそう言っていた。
僕がいじめっこにボコボコにされたときもいじめっこをやり込めたあとで同じことを言ったし、大学受験で志望校に落ちたときも、肩を抱いて同じことを言った。
「じいちゃん、さすがに受験に目はないよ。こればっかりは、どうにもならない」
なげやりに言うと、じいちゃんは真剣な顔をした。
「目を閉じてみろ。そんで、ようく見てみい」
目を閉じるのによく見ろなんて、変だ。なのにやってみると、確かに目が見えたような気がした。志望校には翌年、無事に合格した。

それから大切なことに相対するたび、僕は必ず相手の目を見た。目のある相手には目を開けて。そうじゃない場合は、目を閉じて。
最期の夜、もうじいちゃんは目を開けなかった。けれど、不安はなかった。大事なことは、もう知っている。
揺れる線香の煙を前に、僕はゆっくりと目を閉じた。
その他
公開:19/12/24 00:19
更新:19/12/30 16:17
節目

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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