空き地

4
7

 乾物屋とトルコ料理店との間が空き地になっていた。大通りから銀行の角を入った昔からある通りの、寂れ具合が一回りしてお洒落スポットになりかけている路地の真ん中に、バスケットコート半面ほどのじっとり湿った黒い土がむき出しだ。
 ここは神社だったはずなのだ。
 週に一度、この境内で写生をしたり、鬼ごっこをしたりした。正面に赤い鳥居がそびえ、小さな祠と賽銭箱が見え、左右には狛犬がいて、その手前には灯篭が立っていた。樹木が生い茂る中、当時は幼稚園児だった私の、そこはアリジゴクとどんぐりの森だった。
 私は通り沿いの喫茶「倫敦」へ入って、いつものマンデリンを注文し、「あの空き地はどうなるのでしょうね」と店主に尋ねた。すると店主は首を傾げて「どの空き地だい?」と言う。
 私は慌てて「勘違いでした」と答えてコーヒーを飲む。
 通りの向こうから60年前まで運行していた蒸気機関車の近づいてくるのを眺めながら。
ファンタジー
公開:19/12/25 18:41
更新:19/12/25 19:14
宇祖田都子の話

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容