水を一杯

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 河原近くの芝生に一人ぼっちで座りながら、一週間前に彼氏に振られたことを、一月前に会社をクビになったことを、ぼんやりと思い出していた。
 もうお前とはやっていけない。
 君はこんな事もできないのか。

 空っぽな自分を責め立てる、惨めな残響。どうしてこんな状況になってしまったのだろうか。

「水を一杯くれませんか?」

 ふと下の方から声が聞こえた。見下ろすと両手にカップを持った小人がいた。

「ごめんね。水どころか、今の私は何にも持っていないの」

 自嘲気味に呟くと、小人はにこりと笑った。彼はトントンと軽やかなステップを踏んで、私の肩まで登って来る。掴んでいたカップを私の頬に押し当てて、目尻に溜まった雫を小さなカップの底に落としていた。

「そんなことありません。ほら、これで私の望みは満たされました」

 きらりと光る雫を、カップごと大事そうに抱えた小人は、次の瞬間、ぱっと消えた。
その他
公開:19/12/25 14:41

ユシキ

 素敵な文章に触れあいつつ、自分も自分の言の葉を、ひっそりと綴ってみたいです。

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