漆黒の蝶

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また現実をみた。私は毎晩のように布団の中で現実をみている。漆黒の蝶が空爆の止まぬ町をどこまでも花を求めて飛んでゆく。
私はかつてスナイパーだった。
国連には非公式の紛争処理班があって、私は世界各地で紛争を未然に防ぐため、あるいは早期に収束させるために、秘密裏で暴走する各地の危険人物を標的にしてきた。
母親の介護のために日本に帰国した私は、政府から引退を勧められた。還暦を過ぎて射撃の精度が落ちた実感がある。これが引き際。代替要員には私の息子が選ばれたという。
冬でもあたたかい東京。国から与えられた奥多摩の家に身を置いていると、自分の身体が砂のように感じる瞬間がある。自分のやってきたことに意味はあったのだろうか。いつまで日本はこのような人的謝罪を果たし続けるのか。崩れゆく私。砂人形から漆黒の蝶が羽ばたいて、私は夢と現実がわからなくなる。
人を殺めた人間は蝶になるのだと、東欧のある国で聞いた。
公開:19/12/25 14:23
更新:19/12/25 14:37

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