一目会いたい

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母に会いたい。その思いで私はこの薬を作った。
薬を母の写真に垂らす。すると写真から母が出て来た。
私は母を前に頭を下げた。
女手一つで育ててくれた母に私は親孝行一つ出来なかった。
それどころか母を蔑ろにして仕事に没頭した。
いつか母に楽をさせてやりたい。その気持ちをすっかり忘れていた。
思い出したのは母が倒れ帰らぬ人となってからである。
そんな母に会って謝りたい。だから私は写真から人が出てくる薬を作った。
「よぅやったねぇ…」
母は私を責める事なく、優しく抱きしめてくれた。
私は年甲斐もなく母に甘え、涙を流した。
暫くすると母は写真の中へ帰った。
二度目の別れは悲しくない。気持ちはちゃんと伝えた。

私は薬の研究を辞めた。私が満足したからではない。
仲間が皆、行方不明になったからだ。
行方不明になった皆の共通点は二つ。空の薬瓶と部屋に残された見知らぬ異性と一緒に写っている写真が一枚である。
SF
公開:19/12/22 18:39
更新:19/12/22 18:51
節目

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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