大人の傘を差すのがこわいわけ

20
14

 ぼくは大人の傘を差すのが怖い。
 この間の雨の夕方、卵を買いにいったときには、まだ怖くなかったから、大人の傘を差していったんだ。大きな傘を差していれば濡れないからね。卵一パックを袋に入れ、持つところに引っ掛けて外に出ると、すごく暗くなっていて、雨もひどくなっていた。傘の中はものすごくうるさくて、なんだか怒鳴っている声がまざっているみたいに聞こえてきた。
「入れろ!」「入れろ!」「入れろ!」「入れろ!」
 電信柱がたくさん立っている道は、明るいところと暗いところが変わりばんこになっていて、暗いところを通るときにだけ、その声が聞こえてきた。
 ぼくは「どうぞ」って言ったんだ。そしたら、
「悪いな」「悪いな」「悪いな」「悪いな」って。犬みたいな臭いがして、傘がグラグラ揺れた。
 ぼくは隣を見ないようにして家に帰った。卵はパックの中から消えていた。
 だからぼくは、大人の傘を差すのがこわいんだ。
その他
公開:19/12/22 18:23
更新:19/12/22 18:24
こわいわけ

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容