聖なる夜に

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姉は避雷針が好きだ。
だから姉が避雷針の上で叫んでいると警察から連絡を受けたときは、正直、だからどうしたの、と思った。大変な状況だからと言われても、避雷針につかまって叫ぶのは好きな人なら誰でもやっていることだ。警察が動くようなことではない。
姉は「月刊避雷針」の編集者で、現場は姉が働く出版社の屋上だ。いったい何が問題なのか。
私は田無タワーの避雷針に五円玉を積む作業を中断して、神保町にある出版社に向かった。
避雷針で風に身を晒す作業を業界では純度を高めると表現する。余分な水分には日々のアクがたくさん含まれているから、風に晒して飛ばしてしまう。身は乾くほどに本来のうまみ、個性が、濃く深くなる。
巡回中の警察官が問題視したのは、避雷針の上にスカート姿の姉が座っているからだった。
風に揺れるスカートの中はどうなっているのかと。
くだらない。
「忙しいんだこっちは!」
私は警察官に雷を落とした。
公開:19/12/23 22:39

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