かもされて

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雪の朝は寒さより静けさが沁みる。
虫歯のような寂しさも降り積もる雪に隠れて、たとえ私が叫んだところで誰かに届くことはないだろう。
エアコンやストーブはなく、温熱管と呼ばれる温水が循環するだけの暖房器具がむきだしのコンクリートの壁に数本走っている。もっともそれは昔のことで、今は温水が流れることはない。かつて防空壕だった洞窟を日本酒の貯蔵庫にした蔵元は廃業し、近隣に人家もなく、今はヒグマが一頭暮らすだけ。私は彼にかどわかされてこの独房みたいな暗がりで生きている。
彼は入口が雪に閉ざされるのを待ってから冬眠に入った。
天井の隙間から薄日が差す僅かな時間に、蔵人が残していった赤べこがおいしくなあれと揺れている。
雪が溶けたら逃げ出そうと思っていたのに、彼の寝顔を見ていたらそれは何より暖かくて、目醒めの春を待ち遠しく感じる。
彼は私を抱いて離さない。
沸々とたぎる想いは春までに、おいしくなあれ、私。
公開:19/12/20 11:35
更新:19/12/20 15:17

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