祖父の再婚

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「息子さんをください。私の第三の夫にしますから」
まっすぐに。真剣に。彼女は帯封の付いた札束を、私の両親や祖父や妹の前に積んでいく。
それは知らない国の知らない紙幣。国王だというおばさんが紙の真ん中で笑っているが、私は笑えない状況だ。まさか自分のほかに夫が2人もいるとは今の今まで知らなかった。
彼女は次期国王として、祖国に私を連れて帰りたいと言う。
女帝の国の三夫一妻。そんな婚姻を私の家族が喜ぶはずがない。それでも彼女は彼女なりの誠意を精一杯にみせている。
父は権威と現金に弱いから、母が隠した彼女の靴を出すように言った。お茶にワサビを入れた妹を叱りつけて、紙幣の価値を調べはじめた。
その国のインフレは凄まじく、紙幣が紙きれ同然だと知った父は猛烈に結婚に反対した。
彼女は簡単に私を諦めたようで、静かに祖父を連れて帰っていった。
両親は安堵して、祖父の不在に気がついたのは2日後のことだった。
公開:19/12/21 16:28

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