婚【KON】

ただいま。
疲れた。でも楽しかったよ。同窓会。
もう随分と参加者も少なくなったけれども、行って良かった。
しかし女性ってのは目敏いね。僕の指輪を見てさ『結婚していたの？』だってさ。
え？　指輪なんて持って居たかって？　まぁ、聴いてよ。
結婚２５周年目は銀婚式、５０周年目は金婚式、そんな風に節目ごとに呼び名があるけれど、結婚６０周年目の記念日はダイヤモンド婚式と云うらしいんだ。
僕らは学生結婚だったから君には長いこと金銭面で苦労をかけたね。
婚約指輪も結婚指輪もあげられなかった事、ずっと後悔していたんだ。
それで、今更照れ臭いんだけれども。
――指輪。受け取ってくれるかい？
この指輪のダイヤモンド、綺麗だろう？　実は君の遺灰と僕の髪の毛で作って貰った人工ダイヤなんだ。
これからも宜しく。遠からず其方に逢いに行くよ。
　
男はそう云い、妻の遺影の前に指輪を供え、額突くように深く静かに合掌した。