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「お前の血が邪魔なんだよ!」
 父は会社を五つも経営している実業家だが、芸術の才能は皆無だった。俺は小説化になりたかった。母は短歌集を出版しており、雑誌にコラムも持っている。だから、俺がいつも予選落ちなのは、父の血が混じったせいに決まっている。
 父は肩を落として母を見た。すると母はコクリと頷いた。
「鳴滝栄一を知っているな?」
 当然知っている。多くのコンテストで審査委員長を務めている文芸界の重鎮だ。
「それが、お前の父親だ」
 世界がスッと遠のいた。
「だから、お前の芸術の血統に混じりけはない。鳴滝はお前の才能を恐れているんだ」
 母が俺の手を取った。
「証拠は何もないわ。でもそういうことよ」
 真っ白になった俺の心に父の言葉が響いた。 
「お前のその才能を出版に繋げる、SNSを連動させたコンテンツを立ち上げて、鳴滝を見返してやれ」

 現在の俺は、IT企業を四つも経営する社長である。
その他
公開:19/12/18 09:48

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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