小さな雪が解けるとき

　夕方の六時。
　深夜バイト組の男の子達が来て、彼らと引き継ぎを済ませると、舞は帰り支度を始めた。
　二の腕をさすってコンビニから一歩踏み出すと、頬に冷たいものを感じる。見上げると、薄い雲から小雪がまばらに舞い落ちてきていた。
「雪だ……」
　小さく呟いた舞の胸元に白い息がふくらむ。
　すっかり冬になっちゃった——。
　溜め息なんてついた覚えはないのに、白い吐息のせいで自分が仕事場を名残り惜しんでいるような気がした。
「ね、早瀬さん、スマホ忘れてない？」
「えっ」
　振り返ると、さっき話したばかりの佐野君が素のままの表情で舞を見つめていた。
「あ、ごめん……」
「帰り、気をつけてね」
　舞の手元にスマホを戻すと、佐野君はためらいがちに軽く手を振った。
「ありがと……」
　軽くお礼を言って、その場の空気に流されるように舞は少し歩いてから一度だけ後ろを振り返った。
　佐野君はまだ舞を見ていた。