望遠鏡

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 船乗り見習だった時のことだ。
 不思議な望遠鏡を覗いたことがある。
 それで覗くと、次にその船の着く先が、どんな場所か見える。
 大きな港町に向かっていたのに、寂れた漁村の村が見えた時があった。その時は思わぬ時化にあい、途中で小さな島の漁村に寄ることになった。

 ある時、とても綺麗な街が見えた。
 花が咲き乱れ、広場の真ん中には噴水がある。
 次は、とても素敵な街だと言うと、周りの船員達も見せてくれと覗きに来た。
 だが、真っ暗で何も見えないと言う。
「いい加減なことを言うな、ガキ! 壊れてんじゃないか!」
 大人達はそう言って殴った。
 街の話をするのはやめた。
 
 結局、望遠鏡が壊れていたかどうかはわからないままだ。

 船が沈んだからだ。
 大海原の真ん中で、誰一人生き残ることはできなかった。
 冷たい海の底に沈んで行きながら、僕はようやくあの美しい街へたどり着くのだと思った。
その他
公開:19/12/18 07:32

堀真潮

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