虚神

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我は虚無を回収する虚無の神である。虚ろな神と書いて虚神とも呼ばれる。
人間という種族であれば誰しも持ち得る虚無の時間。それを回収する役目を担っていた。
彼等は常に何かを憂い、嘆き、怒っている。そうして増大する感情という名のエネルギーを、ある日突然なくしてしまうのだ。それこそ虚無の瞬間である。
ここだけの話、人間どもの虚無を回収してさえいなければ、この世界からはとうの昔に戦争などなくなっていた。永久なる無で満たされた人間に、争いなど起こるはずもないのだ。
美しき星がたった一つの種族に蹂躙されることを食い止めるには、我が虚無を回収しなければ良い話である。
しかし我は、虚無を回収し続けている。彼等に複雑怪奇なる感情を呼び戻させては、戦争や革命や暴動を引き起こす様を見てきた。
無は永久なる幸福だが、何ひとつとして生み出さない。美しいだけの星ではなく、穢らわしくも異物で溢れた世界を、神は好むのだ。
その他
公開:19/12/19 22:45

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