月、スポットライト

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盛大な拍手が鳴り響き、我に返る。
一筋の熱が頬を伝う。
息をするのも忘れていた。
はっと空気を吐き出す。
切ないのか、苦しいのか、辛いのか、ただ両手に力を込めてマイクを握りしめ、歌う少女。
私と彼女の間には百人ほどいるはずなのだけれど、二人の間にだけスポットライトが当てられ、世界が切り取られたように感じる。
わずか一メートル五十センチほどの高さの舞台に佇む彼女が眩しくて仕方ないのは、スポットライトのせいだろうか。
私は彼女にまんまと魅了されてしまった。
歌が上手かった訳ではない。ダンスもあってないような振りのものである。
しかし、彼女からほとばしる情熱は雷撃の如く、私の心の臓を貫いたのだ。
その日から、私の生活は華やかな色を帯び始めた。
月はあんなに煌々と光っていただろうか。
そうか、月は等しく人々を照らし続けていたのだ。
ああ、世界とはこんなにも美しい。
今週も彼女に会いに行こう。
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公開:19/12/19 18:04

高虎( 大阪 )

大阪はミナミでバーテンダーをしております
純文学を好んで読みます

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