WHITE CHRISTMAS

10
10

I'm dreaming of…
I'm dreaming of…
I'm dreaming of…

音飛びだ。嗄れたボーカルが同じフレーズを繰り返す。窓辺のターンテーブルを見やれば、夜の町には雪が降っている。

いや、降っては、いない。

雪は宙に浮かんでいる。ストウブに置かれた薬缶からは、蒸気が吹き出したまま固まっている。動きを止めた世界で、男だけはレコードがひと回りするたび、なんども同じ夢を見ている。

I'm dreaming of…
I'm dreaming of…

妻が好きな歌だった。クリスマスが近づくと、しきりに口ずさんだ。懐かしい声に胸の奥がじんとする。よっぽど好きなんだね。男の言葉に妻は微笑む。でも、このレコードは置いていくわ。

I'm dreaming of…

針を持ち上げると、妻の歌声だけが残った。静かに回り続けるレコードに、男はやっと涙を零すことができた。
恋愛
公開:19/12/16 17:21

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容