黒猫さん、横切る。

黒猫さんが横切った。大地が揺れた。
黒猫さんが横切った。上空が轟いた。
黒猫さんが横切った。海原が荒れた。
黒猫さんが横切った。親父がキレた。

黒猫さんが横切るたびに不吉な事が起きる。

黒猫さんが横切った。
「ちょっと、私の前を横切らないでよ！」
思わず声をあげてしまった。黒猫さんが踵を返し、こちらに近寄る。
「なぁ、知ってるか？」
「なによ？」
「イギリスでは幸せのシンボルとして、結婚する時に黒猫が横切ると幸せになる、って言い伝えがあるんだぜ。へへっ」
下衆な笑み。これだから黒猫さんは嫌なの。
「でも、ここは日本よ」
「俺、イギリス生まれだし」
ああ言えば、こう言うタイプか。
「捨てられたくせに」
私にはニオイでわかる。黒猫さんは間違いなく捨て猫だ。
「ふん。スコティッシュフォールドの君にはわからないさ」
黒猫さんの表情が曇った。
「どうして？」
「俺、インスタ映えしないんだってよ」