くいのこらず

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師走の東京。丸の内ですれ違ったのは同じ袋からうまれた女のカマキリだった。
僕たちの業界では兄弟姉妹の感覚はない。カップルであっても相手を食べて栄養分に変えることは珍しくないから。
僕はカマキリである自分を好きになれなくて、交尾には参加せず、岡山から東京行の新幹線にしがみついてきた。
陽が落ちると冷たい風が吹き抜ける東京。オフィス街を貫く一本道をシャンパンゴールドのイルミネーションがきらめいて、僕はもう一度昼がきたように感じた。
「お前ここで何してんだよ」
「一度来てみたかったから」
「交尾は?」
「興味ない」
女は薄茶色のコートをまとい、なんていうか、セクシーだった。
「素敵なコートだね」
「大根の皮よ」
裸の自分が恥ずかしい。
「これからどうするの」
「聞いてどうなるの」
それから僕たちは暖かい場所で暖かいことをした。
それだけの奇跡。
冬を越すなんて夢をみながら、僕の体は残りわずかだ。
公開:19/12/16 12:07

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