出不精

2
6

男は布団に籠もっていた。もう数日は家から出ていない。
「父親は立派だったのにねえ。」
外に出ればその噂で溢れている。
「お前なんて産まなければ良かった。」
母は弟を溺愛していた。仲が良かった友人も気づけば敵になっている。

 このまま引き籠もっていれば事態が好転するのではないか、いや家を売ればまだ何とかなるという楽観的な考えもあった。だからこそ、まだ動く時ではない。

明朝、雷の音と共に襖が開いた。
「殿!前方の城が敵方によって落とされました。」
男はその言葉を待っていたかのように飛び起きる。
「皆に伝えよ出陣の時が来たと。」
素早く身支度をすると馬に乗って城を出た。

「この出不精共め、やっと尻に火が付いたか。」
 もう後がない主家存亡の危機、籠城派も投降派の武将も殿の後を必死に追いかけるしかない。
「目指すは桶狭間、今川義元の首ただ一つ。」
 天下の行方は大きく動こうとしていた。
その他
公開:19/12/17 13:33
更新:19/12/17 15:30

はつみ

現実世界の2次創作
誰かに教えたくなるような物語を書きたいです

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容