グレープフルーツ

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悠人の母親は、父親が家を出て行ってから、薬物中毒者になった。

狭いアパートの一室には、常に、薬特有の臭いが充満していた。

「ねえ、悠人。買い物はまだなの?」
母親は、口がうまく回っていない様子であった。

「うん。今、ちょうど、買物に行こうとしてたんだ」
悠人は、学校から帰ってきたばかりなのに、咄嗟の嘘をつき、近くにあったトートバックを肩に提げた。

母親は、大量の処方薬を手にのせ、一気に水と一緒に飲んだ。

「ごめんね」
母親は、情緒が不安定なため、毎日のように涙もろかった。

悠人は横に首を振り、家を出た。

「くそ親父」
悠人は、怒りを抑えながら、コンクリートの上を足早に歩いた。

悠人が、帰宅すると、母親はキッチンテーブルの上でうつぶせになり、亡くなっていた。
玄関に放り投げられたトートバックの中から、母親の大好物のグレープフルーツが一つ転がって出て来た。
その他
公開:19/10/07 22:22

神代博志( グスク )









 

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