老人の幽霊

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 近所に、いつも道路に向かってわけのわからない事を怒鳴っている爺さんがいた。
 僕はいつもそっちを見ないようにして、出来るだけ早足で通り過ぎるようにしていた。
 近所の人はみんな「亡くなるまでの辛抱だから」と言って、我慢していた。ようやく爺さんが死んだ時、これで静かになると誰もが思った。
 でも、僕には見えてしまった。

 いる。

 前と同じ場所に爺さんがいて、生前と同じように意味のわからない事を、ずっと怒鳴っている。もう「亡くなるまでの辛抱」は通用しない。
 しかも老人が見える人は僕の他にもいて、彼らによって噂は広まり、オカルト好きの野次馬で騒がしさは何倍にもなってしまった。
 これが延々と続くのか。
 絶望しかかった頃、突然老人の姿は消えた。
 どうやら、野次馬が話を聞いてくれたことに満足して成仏したらしい。

 もしかしたら、僕らはもっと早くに静寂を手に入れられたのかも知れない。
ホラー
公開:19/10/07 21:34

堀真潮

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