Träumerei①

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目が覚めたら、ぼんやりした記憶がたちまち霧のように消えて、微塵も残らなくなる。

そのくせ今しがたの夢を刺激する何かががあると、ふと鮮明にそれを思い出す。例えば竈に火を入れる動作、衣を広げた時の風、茶葉に湯を入れたときの匂いまで。

引き金は何になるか分からないけど、そのせいで、現実を生きてるのか、夢を生きてるのか分からなくなる時がある。走馬灯のように、夢の中で何か一生懸命になっていた事が駆け巡る。

夢を見た次の日はぐったり疲れるから、眠りたくない。

それでも眠りは訪れる。

いつものように扉の側で泣いている木霊が出てきて、その濡れた目がこちらを見た。側に行って火を焚き、温かいお茶を淹れて、自分の衣をかけてやる。

その後、扉の前まで手を引かれるのは同じ。いつもは拒否するけど、今日は初めて抗うのをやめた。恐る恐る扉を開ける。今日の夢は覚めない。

消えた彼女は、二度と帰ってこなかった。
公開:19/10/08 23:50
更新:19/10/09 01:21

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

104.がおー

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