あたしは金魚

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あたしは金魚。
りんごみたいに真っ赤なドレスを着てるから、そう呼ばれてるの。
「金魚ちゃん、もう一緒にはいられないよ」
どうして、とヒラリ、裾の赤を翻すとため息をつかれた。
「ぼくときみのヒミツがバレてしまったから」
もさもさの、毛を刈られる前の羊に似た髪をした男は、そう言ってあたしに近づいた。眠たげで好きな一重の目と距離がぐっと縮まる。そのままキスでもしてくれたら良いのに。
「本当に悪いと思ってる」
奥さんに内緒で飼うからよ。
気まぐれに噴水で拾って、気まぐれに水槽に閉じ込めておいて、気まぐれに放流するなんて。ひどい男ね。
「ごめん、もう行かなくちゃ。あと15分で終電なんだ」
これ見よがしに切符をぴらぴらさせるものだから、あたしもため息をついた。男は長い傘の柄を掴んで、もう一度ごめんと言い残し出て行った。
せかせかと歩く後ろ姿がガラスの向こうに消えていく。
ああ、また飼い主を探さなきゃ。
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公開:19/10/05 00:10

まるやま

「ローリーズストーリーキューブス」を転がして出た9つの面から想像して書いてます。

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