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酔っていたわけではないが溝に落ちた。幼稚園の頃から通いなれた近所の公団団地と市民公園との間にある道だ。側溝の蓋の上を立幅跳びの要領で邁進していた僕の着地場所に、その穴は準備されていた。外灯も切れていたし。
「二度目だな。こんな風に穴に落ちるのは」
と僕は、顎の高さにある歩道の来し方行く末を睥睨しつつ、肩を前後に揺さぶってはみたものの、ほぼ肩幅の側溝に「気をつけ」の姿勢でがっちり嵌り込んでいる僕の体はおもしろいように動かなかった。
「前に落ちたのも、この穴だったかな」
僕は視線をめぐらせ、向かいの公団団地の壁面にぼんやりと滲む5Bという記号を見つけた。
「ハモニカを壊した夜の母はご機嫌斜めだった。この先にある玩具屋の主人を叩き起こしてハモニカを売ってもらった帰りに、僕とハモニカとはこの穴に落ちたんだ」
僕は自分のハモニカのレパートリーを口笛で吹くことにした。他にやれることは何もなかった。
「二度目だな。こんな風に穴に落ちるのは」
と僕は、顎の高さにある歩道の来し方行く末を睥睨しつつ、肩を前後に揺さぶってはみたものの、ほぼ肩幅の側溝に「気をつけ」の姿勢でがっちり嵌り込んでいる僕の体はおもしろいように動かなかった。
「前に落ちたのも、この穴だったかな」
僕は視線をめぐらせ、向かいの公団団地の壁面にぼんやりと滲む5Bという記号を見つけた。
「ハモニカを壊した夜の母はご機嫌斜めだった。この先にある玩具屋の主人を叩き起こしてハモニカを売ってもらった帰りに、僕とハモニカとはこの穴に落ちたんだ」
僕は自分のハモニカのレパートリーを口笛で吹くことにした。他にやれることは何もなかった。
ファンタジー
公開:19/10/02 17:10
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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