someone's tail

「キンギョ・クーラーでございます」バーテンダーがグラスを差し出した。
　冷たいカクテルを求めて入ったバー。青い照明の中、時折ゆっくり光がよぎる。端にブルー・ハワイを飲む先客。ワイン・クーラーでも、と思っていた女に、意外な飲み物がすすめられた。グラスに浮かぶ炭酸の泡の中を、金魚が泳ぐ。
「…おどり食い？」女は引き気味に尋ねたが、飲み物の冷たさにひかれ、グラスに口をつけた。金魚が抵抗もなく体内を泳いでいく。全身に涼感、やがて心地よい浮遊感。
　カウンターを離れ宙に浮いた女の身体が、青い店内を漂う。「美味しい、このカクテル」いつの間にか生えたオレンジの尾びれを揺らめかせ、グラスを振る。ゆっくり泳ぐ店内は、水の中。
「そちらはcock tailではなく」端の客にテキーラ・サンライズを出した後で、バーテンダーが答えた。「fish tailでございます」
　水の色がオレンジと赤にそまった。