儚き命と花

0
5

彼女と手を繋ぎ、歩いたことを覚えている

浴衣を着た男女に、その人々が履く下駄やサンダルが鳴らす音。周囲に漂う香ばしい匂い

そのどれもがあの大切な思い出を蘇らせてくれる。何も変わっちゃいない

変わったのは身長が縮んだこと。髪の毛が薄くなったこと。最近は腰の痛みも酷くなってきた。お陰で歩くのも辛くなってしまったけれど、この日だけは天つ空に姿を晒す

切れそうな糸を丁寧に手繰り寄せ、いつものベンチに座り込む

一言も発することなくじっと待っていると、上空で色鮮やかな花達が咲き始めた。遅れてなる爆発音で周囲の音が掻き消えて左手に暖かさを感じる

振り向いてもそこに姿はないけれど、確かに僕の手を握っている

花が消えれば暖かさもなくなり、いつもの世界へと戻ってくる

「またくるよ」と呟けば、天に隠れるように人混みの中へと紛れて帰路につく

またここで、あの大きな花を二人で眺めるために
恋愛
公開:19/09/26 23:24

梅雨入 朱雀

コメントお願いします

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容