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「今揺れた?」
「いや」
「揺れたよね?」
「そうかなぁ」
誰に聞いても揺れていないと言う。
気象庁のデータを調べても地震などないから私の勘違いなのだろう。でも確かに揺れている気がする。
「老いだよ」
研修医をしている幼なじみの上杉がそんなことを言う。
「まだ28だぜ」
「もう27じゃないんだよ」
この揺れが老いだとしたら、つまりこれは震えということになるのだろう。信じられないけれど、そろそろ研修を終える研修医が言うのだから、それは医師の言葉として聞いていいはずで重みがある。
「武田、冗談だよ」
上杉は大体ひどい。
昔からこうだった。私が真剣になればふざけて、私がふざけると真剣に怒る。いつか大きな喧嘩をしようと思いながら今日まで生きてきた。
「お前の中に信玄があるんだよ」
私は自分のルーツにハッとした。
「じゃあ俺、検診あるから」
と上杉は帰ってゆく。
ここは川中島。千曲川と犀川のあいだ。
公開:19/09/24 10:36

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