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デパートの屋上へ上るエレベーターに、幼い頃の私にそっくりの男の子が一人で乗り込んだのが見えた。
当時、家族でデパートに来るたびに、私は屋上のメリーゴーランドに隠れて爪を噛んでいた。母はこのかくれんぼに飽きていたが、私は母が探しに来てくれるのがうれしかった。
エレベーターで屋上に出ると、遊具は止まっていて人影も無い。私は「臆病者は大人になっても愛されないぞ」と呟いてメリーゴーランドを覗いた。そこに「私」はいなかった。
咄嗟に、スマホを動画モードにして辺りを撮影する。
数分後、エレベーターが開き、取り乱した女性とガードマン数名が現れた。
「ママ!」
ゴーカートの隙間から男の子が駆け出してきて、女性に抱きついた。
「あの人に腕をつかまれた。こわかった」
男の子は私を指差した。
「本当にそっくりだ」
私はガードマンに羽交い絞めにされながら、男の子の親指の爪を見たくて仕方がなかった。
当時、家族でデパートに来るたびに、私は屋上のメリーゴーランドに隠れて爪を噛んでいた。母はこのかくれんぼに飽きていたが、私は母が探しに来てくれるのがうれしかった。
エレベーターで屋上に出ると、遊具は止まっていて人影も無い。私は「臆病者は大人になっても愛されないぞ」と呟いてメリーゴーランドを覗いた。そこに「私」はいなかった。
咄嗟に、スマホを動画モードにして辺りを撮影する。
数分後、エレベーターが開き、取り乱した女性とガードマン数名が現れた。
「ママ!」
ゴーカートの隙間から男の子が駆け出してきて、女性に抱きついた。
「あの人に腕をつかまれた。こわかった」
男の子は私を指差した。
「本当にそっくりだ」
私はガードマンに羽交い絞めにされながら、男の子の親指の爪を見たくて仕方がなかった。
その他
公開:19/09/23 16:41
更新:19/09/23 17:08
更新:19/09/23 17:08
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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