嘆きの天使

10
9

 眼下を往来する人や車。僕にはそれが濁流にしか映らなかった。その濁流で生きていくことのできなかった僕という絶望を、僕はその濁流に捨ててしまおうとしていた。
 フェンスによじ登り、清らかな空を見上げる。
 と、高層ビルの上から、黒い影がどんどん大きくなってくるのが見えた。長い髪。翻るスカート。「女の子?」と思う間も無く、それは、ズガァ~ンッ! と、この屋上に叩きつけられた。
「ッキショー。ッテー」
「だ、大丈夫ですか?」
 女の子は尻をさすりながら立ち上がり、僕を睨んだ。
「飛び降りる気?」
「ええまあ」
「次にして」
 彼女は僕をフェンスから引き摺り下ろし、地上を見下ろした。
「低っ。こっからじゃ無理かな。ッたく。ま、いいや。あんた。ここから飛び降りるなら最低三ヶ月後か、それか二駅以上離れた別のビルからにしてよ。じゃ」
 そう言い捨てて彼女は飛び降りた。
 僕は今も、彼女を探し続けている。
ファンタジー
公開:19/09/25 12:26
更新:19/09/25 15:46

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容