アコーステックギター

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 私が就職活動を始めたとき、彼はアコースティックギターを拾ってきた。
 私の就職が決まったとき、彼は[F]を鳴らして笑った。
 私が始めてボーナスをもらったとき、彼は私に弦をねだった。
 クリスマス。彼はジングルベルをコードで弾いて満足そうだった。
 大掃除の日。彼は一日中、ベランダで童謡を弾いていた。
 初詣。「彼が働く気になりますように」とお願いをしている隣で、彼は、「ギターを弾きたい」と呟いていた。
 元旦。彼本人が彼宛に出した年賀状には「No guitar No life」と書いてあった。
 バレンタインの前に彼と別れた。彼はギターだけを持って出て行った。
 ホワイトデー。私は職場の先輩と交際し始めた。
 エイプリルフール。公園の炊き出しの列に彼を見かけた。彼は、ギターを持っていなかった。
 私は、「No guitar No lifeじゃなかったの!」と叫んで、彼に駆け寄っていた。
恋愛
公開:19/09/20 18:00

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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