妖刀の誘惑

妖刀は人々を魅了する。
黒く艶やかな姿。
その姿は、まるで夜空のように、あるいは海の底のように、見る者を吸い込もうとする。
そして鋭くも滑らかな表面は、妖しく光を反射して、見る者を惹き付ける。
一度触れてしまえば、二度と手を放すことはできなくなる。
それが分っていて、それでも触れずにはいられない。
妖刀の誘惑に、人は抗うことができない。
金を払ってでも、額が上がったとしても、手に入れようとする。
「ごくり」
妖刀を目にしたら、もう遅い。
気付いたときには、すでに手にしている。
黒い煙に包まれた妖刀を試したくなる。
「えいっ」
身肉をハラワタごと切り裂く。
そして、それに喰らいつく。
身肉に染み込んだ脂と、ハラワタの苦みが、悦楽をもたらす。
「やっぱり秋はコレね」
全身を喰らい尽くすまで手は止まらない。
「生の秋刀魚はこの時期だけだからね」
妖刀の魅力の前に、人は理性を保つことはできない。