あの日見た街

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海上に天高く澄み渡る空ーー。そう、今日のような秋空になると、その街は現れる。
その街とそっくりの街を実際に訪れたことがある。でも、そんなことは本来あり得ないからデジャブ(既視感)だと思い込んでいた。
富山湾、琵琶湖をはじめ、オホーツク海の幻氷、石狩湾の高島おばけ、有明海の不知火など、蜃気楼や空中楼閣と呼ばれる自然現象ではないかとも思った。
でも、違うことが今日わかった。その街に続く虹色のアーチ橋を偶然、浜辺で発見したのだ。
アーチ橋を渡ってみると、懐かしい故郷の街並みを目の当たりにした。まるでタイムトラベルしたかのように昔のままの情景で驚いた。
すると、その街の通りを歩く老人に「今、君が来るところではない。早く戻れ」と注意された。老人が指差す方向を見ると、先ほど渡ってきたアーチ橋が薄く消えかかっている。慌てて元の浜辺に引き返した。
それ以降、その街が現れることは二度となかった。
その他
公開:19/09/22 07:36
更新:19/09/22 07:50
デジャブ 蜃気楼 空中楼閣

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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