真っ黒闇の樹々の海にて

1
6

深い深い森の奥、女が独り佇む。
「これが最期だ。」
消え入る様な小さな声で呟きながら頭上を見上げる。
其処には末端とは思えない程の太い枝。主は樹齢何百年はあろう大木だ。
女はそこにロープをかけ、きつく結んだ。隣には切れた古いロープが。
それを見てオンナはふと物思いに耽った。
「この木は今まで何人の最期を看取ってきたのかな?私の時も優しく見守っていてね。」
樹々が重なる様に生え、まるで樹々の海のようだ。昼間でも光りが届きにくく薄暗い、夜に来たら恐怖でこの樹々の海で溺れそうになる。女はそんな恐怖と必死に闘いながら此処へと辿り着いた。
そうしたら不思議と恐怖は消えていた。何かに守られているような穏やかな気持ちになる。
輪状にした縄を首に引っ掻け、その木に登った。枝の根本部分に座り下を見下ろす。真っ暗で何も見えない。後は足を闇に投げ出せば、事は完了だ。
「これで最期。」
改めて女は呟やいた。
その他
公開:19/09/18 14:40

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容