長縄跳びはお好き?

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 六階のレストランの窓際でスプーンとフォークとを手に、私は幾度も、牛肉とトマトのパスタの皿につんのめりそうになっていた。

 窓の下に見えるバスのロータリーを、バスはコマ撮りのアニメみたいに渦を巻いて流れていく。その外周にある送迎レーンでは、停車する車と通過する車とが、ピアノ曲の右手と左手のように噛み合っている。駅前の噴水からは、終わらない指スマみたいな感じに水が噴き出し、その向かいの高層ビルの壁面に四基並んだ展望エレベーターは、何かを競ってでもいるかのように上下する。それらが一望できる窓にぶら下がっているブラインドのチェーンは空調の風を受けてランダムに揺れ、店内の他の客が響かせる食器の音や歓談の声が高く低くうねっている。目にも耳にもそして肌にも片時も止まることなく伝わってくる律動。
 これらの途方もなく複雑なリズム中で、目の前のパスタを食べ始めるタイミングを、私は逃し続けているのである。
その他
公開:19/09/19 22:06

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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