窓口で

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増税前に離婚する人で区役所の窓口はごった返していた。
私はその意味がわからなくて、並んでいるおばさんに声をかけてみた。
「どうして今なんですか?」
「これ以上の負担は無理よぉ」
「夫婦にも課税が?」
「知らないのかい」
「初耳です」
「会話のない夫婦だと住民税があがるんだよ。うちなんて何年も笑ってないし、その分もさかのぼって請求されるって言うじゃない。そんなのたまんないからねぇ」
「笑いも関係するんですか…」
「そうよ。今は笑ってないと課税される時代なの。あなたも離婚?」
私は持っていた婚姻届を隠した。
「あなた、結婚なの?」
「じつは…」
「大丈夫?旦那さん面白い?」
「いや面白くは…」
「面白くないのに一緒になるの?若さねぇ」
「面白さって必要ですか?」
ざわついていたロビーが一瞬で静まり、並んでいる皆が私のことを厳しい顔で見た。
私は列に並びながら、この視線に課税してほしいと思った。
公開:19/09/19 11:06
更新:19/09/19 12:22

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