備前焼の大きな壺

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 祖父母の家には土間があり、そこに子供の背丈ほどもある備前焼の壺があった。祖父はその壺に酒を満たしていた。壺の口は握りこぶしが入るかどうかというほど狭かったが、酒のためにはそのほうがいいのだと、祖父は灯油チュルチュルのようなもので、酒を出し入れしていた。
 私が小学生のころ。夏休みをその家で過ごしている時だ。土間で遊んでいて壺を割ってしまい、酒がチロチロと染み出してきた。私は青くなって震えていたが、父がとりなしてくれて、畑の手伝いをすると約束して、祖父は機嫌を直してくれた。
 雨が上がり、祖父と父と私の三人で壺を裏庭に運び出して、祖父が壺を割った。すると、中から無数の蝉がジージーと飛び出した。壺の裏側には抜け殻がびっしりとついていた。
 壺には常に酒を満たしていたし、栓もしてあった。どうやって蝉が入り込んだのかはわからない。
 その後、新しい壺を買った祖父は、酒の味が落ちた、と嘆いている。
ファンタジー
公開:19/09/15 11:54

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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