壺中良夜

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 中秋の名月が中天にかかる頃に雨が止むと、雲が流れ始め、千切り和紙をぺたぺた貼り付けたかのようだった月は次第にまん丸になって、とうとう透き通った夜空にぽかんと小さな穴が貫通したかのように輝き始めました。
 その光は、硝子を通してこの子の顔を照らしました。この子は短い腕をもそもそと額の方へ上げようとして、自分の顎に肘がぶつかってしまって、口をヘの字に曲げました。私は、その様子を見てこみ上げてくるものを、この子を起こさないために必死でこらえていました。
 私の子供であって私の子供ではないこの子に、誰かがついていてやらなければならないと言われた。それが私でした。必要なものは、みんなあの月から降ってくるの。みんなが外側からこの部屋を守ってくれているの。
 私は、子が起きている間にはこの子の成長と、無事に過ごすことだけを考え、この子がこうして眠っている間には、ここから脱出する方法を考えているのです。
ファンタジー
公開:19/09/15 11:23

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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