爪弾き

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うっかりピアノの蓋に指を挟んだ。
幸い軽傷で済んだが、左手中指の爪に、ぽつりと赤紫の痕。恐る恐る鍵盤に指を沈めて、痺れる様な痛みに跳び上がる。
(どうしよう、明日はコンクールなのに……)
普段の音が出せれば入賞は確実。でも、この指では無理だ。
しばらく氷で冷やし、諦めきれずピアノへ向かう。明日の為に血のにじむ練習を重ねてきた。我慢して、どうにか弾かなければ。
――♪
白鍵の上に、音が響く。
弾いてもいないのに、なぜ?乗せただけの中指をうかがう。赤紫の痕は、点の脇へ短い尾を引いて、まるで音符だった。指を離して再び乗せる――♪確かに中指の爪が奏でた。
指を乗せたまま鍵盤を滑らせる。通過した先から軽やかに音階が抜けた。これなら十分行ける!どころか、押さなくて良い分、普段より楽かも知れない。

楽譜を見て、中指の音符を見る。
コンクールの曲は、非常に速度のある難曲だ。
右手がピアノの蓋を掴んだ。
ファンタジー
公開:19/09/17 01:29
更新:19/09/17 09:12

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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