舌の上のサーカス

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部屋の掃除をしていると、サーカステント形の菓子缶を見つけた。
子供の頃、家族と初めてサーカスを観に行ったときのお土産だろう。
フタを開けると色とりどりの飴玉が入っている。
とうに賞味期限は過ぎていると頭では理解しているが、私の指は飴玉を口に運んでいて――

これはきっと、初めてサーカスを観たときの記憶だ。
飴玉一つで、金色のライオンが吠え、赤鼻のピエロが笑う。
飴玉二つで、人は宙を舞い、獣は火の輪をくぐり、客席からテントを揺らすほどの歓声が上がる。
飴玉三つで、キラキラと輝くステージからおりてきた演者たちが、客席にいる私を囲って手を伸ばし、小さな体を抱えて――



「……あら、その菓子缶懐かしいわね」

母に声をかけられ、我にかえる。

「それね『サーカスを思い出す味』って謳い文句で売ってたのよ」

思い出すどころかどこかへ連れて行かれそうになったのは、賞味期限が原因だろうか。
ファンタジー
公開:19/09/16 17:39

夏巳

Twitter@N_natsuo

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