容疑者

14
12

住宅街の角を曲がるとそこは灼熱のサバンナ。
モモンガを追ううちに、私は国境を越えてしまった。
サンダルに短パン。パスポートどころか財布すら持っていない。
辺りはすっかり暮れてしまい、方角もわからなくなった。
けたたましいサイレンとライフルの発砲音。上空でホバリングしているヘリコプターからいくつものサーチライトが地上の私を捜している。
数年前、妻はこの国境を越えて、私との連絡を絶った。
私はさびしさからモモンガを新しい妻に迎えた。
意思の疎通などできないから、私が強引に妻にしただけ。頭がおかしいと言われても、私のさびしさは妻を置き換えることでしか埋められなかった。
モモンガの妻は、共に暮らしたマンションのベランダから、手足を大きく開き、一枚の布のように滑空していった。
草原を飛び交う銃弾は、流れる星々のように私の胸を貫いた。
踊り散る私は血に染まる壁画。
そうして世界の時間は止まった。
公開:19/09/16 08:47

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容