ビール売りの宿題

私は、球場でビールの売り子をするアルバイトをしている。

その日は投手戦で売れず、球場内の隅で休憩することにした。そこへ少年が声をかけてきた。
「ねぇお姉ちゃん。この問題解ける？」
「さては夏休みの宿題かな」
「まあね」
少年はタブレットの画面を私に見せた。今の時代はノートではなくタブレットを使うようだ。
「——方程式か」
「やっぱり無理だよね」
「やっぱりってなによ」

私は書店で、参考書を買った。結局、方程式が解けなかったからだ。

「数学って面白い！」
数学が楽しくなってきた。解き方さえわかれば簡単じゃない。

あの少年が球場に来ていた。

「おい少年。方程式が解けるようになったぞ」
「ほんとかよ」

試合終了後、タブレットを使い、方程式の解き方を教えてあげた。
「すごいよ！お姉ちゃん」

私にとっての宿題『ビールの売り上げ倍増方程式』は完成した。
売り子の仲間たちは泡を吹いていた。