きこえる

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私が恋におちたのは、旅先の地球、ニューカレドニアの空港だった。
その空港のロビーには誰が叩いてもいい和太鼓があって、男はその和太鼓で、地球中から来ている旅行者を釘づけにしていた。魂が揺さぶられるその鼓動は、演奏というよりも、地球とは別の星々との交信のように私は感じた。
彼はタツノオトシゴのような美しい横顔をもっている。
私は彼に、つたない日本語で、
「わたしをさらって」
と恋心を告げた。
彼は戸惑ったあと、スコールのような涙を流して、私のことをさらってくれた。そして無口なまま、情熱的に私を抱いた。
太陽系の男たちは、身体の芯に陽の光を宿している。私と彼は言葉を交わすことなく、三日三晩、そのぬくもりに溺れた。
四日目、私は地球を発った。
船は太陽系を抜けて、漆黒の銀河を故郷の星へと分け入ってゆく。
明日からまた日常が、退屈な日々がはじまる。耳をすませば地球から、あの日の鼓動が届く頃だ。
公開:19/09/10 00:19

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